ワースト・ファーストコンタクト！

　全寮制の名門高校。
　門の前には受験の合格番号と成績優秀者、上位10名の名前が張り出されている。


「ああ…！」
　僕は感嘆の声をもらす！　
　自分の名前は　 2番目　に記されていた。地元の学校では常にトップだったし、この日のために、かなり努力もした。それなりに自信もあった。

　ハァー

「やっぱり世の中は広いなぁ！」
　尊敬の念を抱きながら僕と僅差で　1番目　に記された名前を見る。

　名は…－－ヒジリ・カナメ－－。



　ワースト・ファーストコンタクト！


　受け付けで春からの入寮の手続きや荷物の支度をしていると、何故か突然、理事長室に呼び出された。
年配の理事さんに少し困った顔で

「キミがミノル君だね？今年の新入生の総代表を務めてくれませんか？」…と乞われた。

「？でも…総代は毎年トップの生徒が務めると聞きました!今年は…ヒジリ…カナメさん？」


「それが…彼が呼び出しに応じてくれなくてね…。それどころか、授業に出たくないとまで言っているらしい。我が校、歴代最高得点で入学したというのに…ハアー残念です！」

「は…はぁ。分かりました。代わりにお引受けします！」
　(じゅ…授業に出たくないって…彼にはこの学園のレベルじゃ低すぎるんだろうか？一度、会ってみたいな。ヒジリ・カナメ)


　学園寮

　ぼんやりと、かなり凄いらしい謎の新入生ヒジリ・カナメの事を考えながら寮に荷物を運び込む。
　「101号室…ここか。」
　カチャ！

「んわああぁぁ～!?」
　2人部屋のそこには一足先に同居人が到着していたらしく、大量の段ボールや衣服が散乱していた！

「っっ!?」
　すでに勝手に2段ベッドの上を占拠した　『誰か』　が布団にくるまって、グッタリと眠っている。

　開いている、下のベッドには上の柵からTシャツやズボンが垂れ下がり、まるで居酒屋のノレンのような有り様だ！

「ふ…普通、2段ベッドの上の所有権はジャンケンで決めるでしょう？」
　上の人物の横暴に呆れながら軽く揺すり起こす。
　「んん～？誰だよ？」　「!!」
　ムックリと起き上がった彼は首もとがダルンダルンのシワシワシャツにトランクス姿という(ここは実家かっ!?)とツッコミたくなる様な姿だった！


「僕は同部屋になるミノルです。ええと、これからよろしく！」
　手を差し出すと力無く握り返し、

「オレ、ヒジリ・カナメ…。」と応えた!
　(えっ!?)
　「ヒジリ・カナメっ!?キミが!?学年トップの？」
　「知らね。」
　死んだ魚のような目で機械的に応答する。

キラリ

「？…!!」
　その目の端に涙の跡があった。

　直感的に(これは何も聞いちゃいけない！)と思い目を逸らした瞬間、
　「聞いてくれよ!!ミノルっち!」と泣きつかれた!

「ミ…ミノルっちって？！」

　ツンツンとした寝癖だらけの頭を抱え、

「失恋したんだよ!失恋っ!!ブロークンハーツっ!!」と号泣を始める。
　なぜ初対面の人を慰めてるんだろう？と思いつつ、背中をさする。

　「オレの努力が水の泡だ～～！入学の意味も消え失せたぁ－!!知ってるだろ!?ミス・キャロラインを！」

「？ぞ…存じ上げませんが…!?」

「ここの生徒なら誰でも知ってるぜ？麗しの美人国語教師っ!!オレは彼女に恋をして、このガッコに入る為に2週間、猛勉強したんだ!!」

「た…たった2週間でトップにっ!?」
　(かなりショックだ…)

　「こんな名門校、お前には無理だって言った前のガッコの担任なんか、頭、丸刈りにしてオレに謝って来たぐらいだぜ!?
　オレは今朝、意気揚々とミス・キャロラインを口説きに行った！がっ!!」
　カナメはがっくりと肩をおとし低音で呻いた。

「ミス・キャロラインはミセス・キャロラインになっていた…。しかもこの春から産休…。代わりに赴任するのは温水洋三45歳。テッカテカのオッサンです…。」

　(ひ…悲劇だ…。シェークスピアの上を行ってる。)
　聞いていられなくなった僕は、カナメを気にしながらも荷物の片付けを始めた。
　家族写真を棚に飾った瞬間！

「お…おい？誰だよその娘!?」
　何故か1オクターブ高くなったカナメの声に振り向き、目を見張る！
　さっきまでとは別人なのだ！全くの!!

　落ちくぼんでいた目は鋭く爛々と輝き、表情は快活!!その奥には狡猾さと抜け目なさを窺わせる切れがあった。

　－－要するに…－－
　「紹介しろよオイ!?」

「マリア…。妹。」 (ボソッ)
　「ちょ～美少女!!、惚れちまったぜぇ－！」　(キラーン)
　－－恋をすると突然、輝き出すタイプ－－？
　「マリアちゃん修道服着てんじゃん!オレ、聖書読破して黙示録、暗記しようかな？半日あれば楽勝でマスター出来るっ!!」
　(しかも邪な目標があれば恐ろしい学習能力を発揮すると見た！)
　「カ…カナメさんが学年トップの理由…今、理解しました…。」
　「カナメでいーって！ミノル義兄サン！オレ達、親友だろ？夏休みには、ぜってーお前の実家に遊びに行くっ!!」
　「い…いやいやいや！」
　ブンブン！
　僕は全力で手を振って否定した！
　「僕らまだ知り合ったばかりだし、マリアには会わせたくない！」
　「遠慮すんなって！」
　彼はちょっとだけズルそうな…けれども人懐っこい笑顔を浮かべて手を差し出した。
　「これかもよろしくな？ミノル！」

　－－このワーストな第一印象で幕を開けたのが、後に僕の親友となるヒジリ・カナメとの出逢いだった。－－

　学校を出てからも僕等の腐れ縁は続き、彼がザジ・ローゼンフィールド嬢と恋に落ちて、空母に乗り組むまでの長くて、短い、けれども、かけがえのない付き合いとなる。

　

　ちなみにカナメが恋愛中の輝きを発揮して一夜にして空母の構造と航海技術をマスターし、
『巨大空母アトランティスの2代目・入り婿艦長』として活躍するのは……僕等にとっては、まだ先の物語…。