お日様家族

サンクルスにボスの声が響きわたる！

　「いいかー！？今から電車の家の車両分けを行う！」

　一同「しゃ…車両分け？」



　事の次第は昨日の夜…




　リューク、キッチェ、マリア、ダイダロスの4人は同じ車両の座席をカーテンで仕切っただけ…という簡易なベッドでそれぞれ寝息を立てていた。

　リュークが一旦トイレに起き出し、寝ぼけてキッチェの布団に潜り込み、前歯が全て抜け落ちる程のパンチを喰らった事で今に至っている。


「はあぁー抜け落ちたのが全部、乳歯で良かったよ」
と、腫れ上がった顔面を撫でながらリューク。


　ビシィッ！！

「まだ乳歯だったの！？」
ツッコむキッチェ。

　後方ではテイオーがリュークの抜けた歯を大地に埋めながら、なぜか「早く芽が出ろ」と呟いている。　（無視っ！！）

　「はいはーい！！オレ先頭車両ね？ボスだから！　で、後は一人一両ずつで部屋わってくれ」

「そうか。やっと個室になるのか！インテリアは和ものを…」（ブツブツ）

　「うおっ！？ダイダロスすでに思考モードかよっ！？」

「ねぇ…マリア…」
キッチェだけは浮かない顔だ。不安げに尋ねる。

　「あのね、迷惑じゃなかったら、キッチェ…マリアと同じ部屋がいいんだけど…ダメ？」

「ふふ、構いませんよ？大部屋から突然個室になるのは　私も心細いですから！」
柔和な微笑みと共に承諾の返事。

　「やったーー！！マリアと同じ部屋になったら、２人で話したい事、いっぱい　あったんだー！！」


　「マ…マリアと話したい事って何だよ！？」

「リュークには関係ないわ！ガールズトークだもん！」
キッチェが顔の前で指を立て、左右に振った。


「が…がぁ～るずとぉ～くぅ～！？」


ダイダロスが慌てて耳打ちする！

「聞かない方がいいぞ？ボーイズは！」

　「私もフェリア＆その友人達のトークを偶然、耳にしたのだが、○○軒の大盛りラーメンを完食しなきゃ、女じゃないとか…月色の塔・社員食堂のデザートバイキングを無駄なく腹に収めるには、どうすればいいか…とか！
　私は、その日ショックでフェリアをフレンチに誘う予定を断念したっ！！」

「…そ…それ、相手がフェリアさんだからじゃねーの？」



　－－－哀れなボーイズを、よそにサンクルスの夜は更けて行く。－－－







　新・キッチェ＆マリアの部屋…




　マリアのベッドの上、マリアのすぐ隣りに　ちょこんと腰掛けたキッチェは手に大きなアルバムを抱えている。



　中には幼いキッチェを抱き上げ、えっへんとした顔で写るリュークや、その様子を見守るリューヤや、島民達の写真が何枚も収められている。

　「こんな写真、マリアに見せたら絶対　リューク照れて怒るもんね！」

　この島でキッチェがどれだけ深い愛情に包まれて育ってきたか、その全ての写真が物語っている。


「キッチェちゃん、幸せだね。」

　アルバムを捲りながら話す。


「うん。キッチェね、生まれてすぐ　お父さんもお母さんも死んじゃったけど、島の皆が家族になってくれたんだ！本物より本物の家族だよ？エヘヘ！超大家族っ！！」

　屈託のない大きな瞳でマリアを見つめる。


「マリアもね、キッチェの新しい家族なんだ！だからマリアが来る前の事、知ってて欲しかったの！…マリアはテラに家族が居るの？」


ーー すぐに優しい義父の庇護の下、何の不安もなく育った幼少時代やその義父ラファエルの死後、あの冷たいミカエル・シャークマンの命で隔離されて過ごした少女時代を思い出した。－－


　そのどちらに於いても、月色の塔の一郭より外に出た事はなく、今のように、サンクルスで自由に暮らす日々が　どれ程、新鮮で輝きに満ちたモノか…この島の人達に対する感謝の気持ちでいっぱいになる…。


「私も…本当の家族は、いないの。　でも今はリュークもキッチェちゃんもダイダロスもテイオーさんも島の人達も…皆が居てくれるから幸せよ。」

　振り返るとキッチェは、片手でアルバムを握りしめ、もう一方の手でマリアの腕を掴み、眠ってしまっていた。

　部屋の模様替えなどで、はしゃぎ　疲れてしまったのだろう。

　起こすのも可哀想に思い、そっと毛布を掛ける。
　今夜はこのまま2人で眠る事にした。


　静かに目を閉じると、甘いフルーツと仄かにお日様の香りがした。