テイオーinサンクルス

　　－－落下する。雲を突き抜け、風を切り、視界は……蒼！…－－

　バシャアア～ン！!　

　「イダダダっ!!」
　高飛び込みで、プールの水に打ちつけられた様な痛みが走り、私の白いもち肌が赤く腫れる。次いで、まるで宇宙空間の無重力に捉えられたかの如く、身体がフワリと浮き上がる！


「んだぁ～!?ウォーターアーチに何か落っこちてきたぞ～?」
　低くて男っぽい魅惑の素敵ヴォイスが近づいて来る。

ガサガサ！

「んわっ!?う…馬が浮いてる？気っ持ち悪ぅ～!?」

　(!?何かしら？よく聞こえなかったわ!?)
　ゆっくり目を開けてチラ見すると20歳前後の青年が立ち尽くしていた。




爽やかな短い黒髪に、逞しく鍛えられた長身、少し眠そうな深い色の瞳が私を見つめていた…！
　(タイプっ！もろ私のタイプだわ～～っ!!)

「リューヤさん…どうしたの？」
「か…カノコ！来ちゃダメだっ!!ショッキングなモノが浮いてる！」

　心配そうに木陰から現れたのは、まだ『少女」』と言っても差し支えのない面立ちの女性だった。


　柔らかく流れる長い黒髪、陶器のような肌。大きな瞳はキラキラと太陽の光を映した海の色だ。
　私には及ばないが、ビスクドールのように可愛らしい。
　カノコと呼ばれたビスクドールが叫ぶ。
　「まあ？何て可愛い馬っ!!リューヤさん、早く助けましょう？」

　「……」
　素敵なリュー様は明らかに(可愛いかっ!?)という顔をしたが、渋々私の体に『投げ縄』の要領でツタを巻き付け　ぐい　と引っ張った！

　　　　　　　　　　　　・
　　　　　　　　　　　　・
　　　　　　　　　　　　・

「助けてくれてありがとう！私はドーカイテイオーよ！」
キランっ
　 リュー様は眩しすぎる私を直視出来ないのか、あさっての方向を見たまま

「はぁ～…またテラから変なのが来たよ。クランベリーの奴に知らせて島民リスト追加しなきゃなぁ…」と面倒そうにブツブツと言った。


(素敵！私を助け出した逞しい腕！素敵すぎるっ!!)
「リュー様、助けてくれたお礼に、私…貴方のお嫁さんになってあげても 良くってよ？」

「お－？残念だなぁテイオー！もう少し早く出会ってたらなぁ～！」
　そう言ってリュー様は私の肩をバンバンと叩いた。

「オレ、妻子持ちなんだよ！なぁ？カノコ」
　隣りのカノちゃんが恥ずかしそうに「ふふっ」と笑って　少し膨らんだ、お腹を愛おしげにさすった。

「あ…赤ちゃんがいるの～!?」


がーーんっ!!
　(ひ…一目惚れした相手がすでに子持ちなんて…)

ペタ…
　私はカノちゃんのお腹にそっと『赤ちゃんが乗ってますシール』を貼った。

　「貼るなっ!!」
ビシィ!!
　　「ぐはっ!?」

　リュー様がカノちゃんのお腹に話しかける。
　「生まれて来るのはカノコに似た可愛い女の子がいいな！」
　「ふふ…私はリューヤさんみたいに、島の皆を守ってくれる頼もしい男の子だと思うわ」

　「オ…オレみたいに頼もしい!?」
リュー様は少年のように顔を真っ赤にしてカノちゃんの顔と空の間に視線を泳がせた。
　残念ながら私の入り込む余地はない！初々しい二人にイライラするっ!!

　「私には分かるわ！生まれて来るのはきっと、カノちゃんに似た可愛い顔のリュー様的な頼もしい男の子！大きくなったら私のお婿さんになるの！」

　「ぶはっ!?何だよ!?テイオー！その魔女の呪いみたいな予言は!?」
　「ふふ…！いいじゃないリューヤさん。この子もお腹で大暴れして喜んでるわ！」
　「ソレ…嫌がってるんじゃねーのか？」

　私はカノちゃんのお腹に語りかける。

　「元気に生まれて来るのよ？カルパッチョちゃん！」
　「おいっ!?変な名前付けんな!!男だったらリュークって決めてんだから！」
　リュー様が怒りの形相で叫ぶ！
　「リューク…リューちゃんか…。」
　私はカノちゃんにお腹を触らせてもらい、そっと挨拶した。

　「こんにちはリューちゃん。未来のダーリン！」