AFTER18話　そして３日後

　－－－落下する。雲を突き抜け、風を切り、視界は……蒼！…ーー

　「おーい！貴様ら、リュークとマリアちゃんを慎重にウォーターアーチから降ろせ！後、そこの犬と馬もな！！」
　「アイアイサー！！」

　リューク達が無事サンクルスに帰還して３日が経つ。

　リュークは独り人気（ひとけ）のない木立の中に抜け出し寄りかかった幹にコツンと額を当てた。

　ハァ
　「全部……夢だったらいいのに…！！」
　「な～んだよ？島民の前では平気な顔してたのに、やっぱ悩んでんのか？マリアちゃんの事！」

　突然、木に手足が生え顔が現れた。

　「んわあぁぁぁっ！？ア…アレックス！？」
　「フッフッ…オレ様があんまり上手く木に扮してたんで、気付かなかったか？相棒」

　（よ…寄りかかった木が、たまたまアレックスってど～いう確率だよ！？）

　「オレ様もマリアちゃんの記憶が、別人のモノになってるって聞いた時は驚いた。
けど、貴様は　ちゃんと連れ帰ったんだぜ！？後はこれからだろ？」

　「…………。」
　リュークは脱力したように座り込み、自分の膝に顔を埋めた。
　「リューク君…って呼ぶんだぜ！？オレの事…」
　悲痛な声が僅かに震えた。
　「この３日、当たり前の事ばかりマリアに説明し続けてる！コイツはマリモン！みかん持った
箱はダンボールマン……もう何ヶ月も何百日も一緒に居て、笑って…っ…こんな事なら……」

　「自分も忘れちまいたいってか？」

　アレックスは　ぐいと　リュークの腕を掴み強引に立たせた。
　トランスシステムの方にずるずると引っ張って行く！
　「ちょっ…アレックス！？」
　「オレ様が一緒にテラに行ってやるよ！で、猫の兄さんに頼んでやる！マリアちゃんの事を忘れさせて
下さいってな！！あの兄さんなら大喜びで言霊をかけてくれるだろうよ！」

　　　　　　　　ぐわしっ！
　器用に足の指先で草を掴み必死で踏みとどまるリューク！
　「ま…待て。そ～いうつもりじゃ……！！」

　アレックスは、ほとんど怒りの表情を浮かべている。
　「そーいうつもりじゃ無いけど、今の状況にも耐えられねぇ…だろ！？」

　鋭い眼差しに誤魔化しは効かない！工作員の個体を見分け、文字郎の演技さえ通じはしないアレックス。
　ここ３日のリュークの空元気など痛々しい程に、お見通しだ。

「貴様が一人で立てねー時は、みんなの肩を借りりゃいい！急ぐ必要はねぇ！ゆっくりでいいんだ。何もかも！」

　「ゆっ……くり…？」
　踏ん張っていたリュークの力が抜ける。


「貴様が何ヶ月も何百日もかけて、マリアちゃんと親しくなったように、これから　ゆっくり思いだしてもらえばいい！」



　ウォーターアーチから　こぼれ落ちる水滴にキラキラと陽の光が反射する。



「これから…ゆっくり…！」
　アレックスの言葉を何度も反芻し、顔を上げたリュークの瞳にもまた、同じ太陽の輝きが宿った。

　頭を掻きながら照れくさそうに笑う。
　「だな。アレックスの言うとうりだ！オレ…ちょっと、焦ってたのかもしれねぇ！マリアを無事に守ってやれなかったのは
オレの責任なんだから、オレがなんとかしなきゃって思い込んで……みんなが居ること、忘れてた。」

　　　　ハァァー
　「忘れんな！バカヤロー！！」
　呆れたように笑うアレックス。

　と、リュークは突然アホなセリフを大声で叫んだ！

「うおおぉ～～！！喝を入れてくれ　アレックス！！こんなオレを　一発、殴ってくれ～～！！」

　一瞬、目が点になったアレックスだが、
　「いよし！歯ァ食いしばれよ！？リューク！！」
　拳をグーに握り振りかぶる！

　「いや！待て、グーはダメ……」
　「何だ？パーでビンタにしてくれってか！？」
　「チョ…チョキでお願い！」
　「ぬふぁ！？チョ…チョキ～！？」
　咄嗟に握った拳をチョキに変え振り下ろす！

　　　グキィっ！！
　「ぬおおぉ～～！？貴様のせいで突き指したじゃねーかー！！」
　「んだよ？うっせーな！そりゃ、オメーの指の責任だろ！？」
　「な…何だとー！？」
　２人の声が木霊する。


　「リューちゃん、大丈夫そうね（笑）」
　遠くから星飛雄馬の姉のコスプレをしたテイオーの顔が覗く。
　（一体、誰に向けたネタだろうか？）
　「うむ。心配は無用だったな。」
とダイダロス。
　「アレックスもたまには役に立つのね～。」
とキッチェが笑った。

　タイのキックボクサー、ダンボールマン、マリモン、お突き様、半透明人間、島民達も皆、そっとリュークを見守っていた。
　そんな様子を遠巻きに眺めていたマリアは、
　「劣化したミノル君とカナメさんが居る…。」
…と思ったのでした。